症例数等
胃がん診療
<胃がん手術症例数>
ごく早期の胃がんでは、内視鏡で切除することで治癒するものもありますが、胃がんはかなり早い時期から胃の周囲のリンパ節へ転移することがあり、早期がんでも粘膜下へ浸潤しているものには手術が勧められます。深達度SM(粘膜下層)以深では外科手術が必要となりますが、病期がIVの高度進行がんの状態で発見されると、治癒は極めて難しい状況となります。このような場合は、治療の主体は化学療法となりますが、腫瘍の縮小で手術が可能となる場合もあります。
最近は化学療法の進歩も著しく、分子標的治療薬に効果があるものに対しては副作用に十分注意しながら積極的に投与しています。
ここ数年、極めて効果の高い抗がん剤が多数使用できるようになり、高度進行がん患者様にも、以前には考えられなかったような効果が認められるようになっており、胃がん治療に抗がん剤は有力な選択肢となっています。また、術前に投与して手術の根治性を高めたり、術後に投与することで再発を抑えたりと、がんの進行程度に応じて抗がん剤と手術を組み合わせた集学的治療を行っています。我々は他施設と共同して積極的に臨床試験に参加し、治療成績の向上に努めています。
<胃がん手術の方法>
胃がんの切除手術では、胃の出口側2/3以上を切除する幽門側切除と胃を全部摘出する全摘手術を、がんの存在する場所や進行度に合わせて選択します。この際、胃の周囲のリンパ節を含む組織をなるべく一塊にして切除するようにします。(リンパ節郭清と言います。)
早期がんでは、大網という胃につながる脂肪組織を温存したり、がんの部位によっては胃の出口(幽門と言います。)を保存するなど、手術後の機能が温存できる配慮もしています。
また、最近は腹腔鏡下手術の割合も増加しており、当院では早期胃がんに限って行っています。縮小手術や腹腔鏡下手術の適応に関しては、胃がん治療ガイドラインに準拠して慎重に行っています。
<胃がん手術後の合併症>
●術後早期の合併症
胃がん手術では、残った胃と小腸あるいは食道と小腸を繋ぎ合わせる必要がありますが、繋いだ部分が狭くなって食べ物の通過に支障がでたり(吻合部狭窄)、繋ぎ合わせの一部から、腸内容が漏れる(縫合不全)ことが起こり得ます。また、繋いだ部分は狭くないのに、残った胃に食べ物が貯留してしまうこと(胃排出遅延)も、時に見られ、このような場合、一時食事を控えてもらうなど、入院治療が長引くことになります。
これ以外で問題になるのは、特に胃を全摘出した場合、胃の背中側に接して存在する膵臓に関連した合併症です。胃がんの標準手術では、膵臓の周囲のリンパ節を郭清しますが、その場合に、術後に膵臓が作る膵液という消化液がお腹の中に漏れて(膵液瘻)、手術のときに入れた管がなかなか抜けなかったり、膿の溜まりが残って、排除する処置を要したりすることもあります。その他、肺炎や糖尿病、心臓病、肝臓病など、いわゆる持病が悪化するなど、入院期間が長くなる状況も時に見受けられます。
●晩期の合併症
一番の問題は、手術後に胃が小さくなる、あるいは無くなることにより起こります。特に手術後1-2月は、一回の食事で摂る量を控えめにしていただく必要があります。それでも、昔から"胃が大きくなる"とか"胃ができる"という話があるように(実はそんなことは起こりませんが)、だんだん一回の摂取量は増えていきます。ただし、胃が食べたものを消化する働きは低下しますので、良く噛んで食べる注意はぜひ続けていただくようお勧めします。一方、食事の内容に関しては、特に制限はありません。栄養のバランスを考えながら、手術後も食事を楽しんで頂きたいと思います。
胆道がん診療
<胆道がん手術症例数>
<胆道がんとは>
胆管は肝臓が作る胆汁という消化液を十二指腸まで運ぶ構造のことです。肝臓の中から十二指腸の間で胆汁が通過する管が胆管で、肝臓の中を通る管内胆管と、肝臓の外に出てから十二指腸までの肝外胆管に分け、胆管が十二指腸に合流する部分を十二指腸乳頭部と呼んでいます。胆嚢は胆管に繋がる袋状の臓器で、胆汁を貯めておく働きを持っています。これらをあわせて胆道と呼び、この胆道から発生するがんを胆道がんと呼んでいますが、部位により症状の出方や治療法が異なり、胆管がん、乳頭部がん、胆嚢がんに分類されます。この領域のがんでは、抗がん剤や放射線治療の効果は未だ十分ではなく、治癒を目指すには手術に頼らざるを得ないのが現状です。
乳頭部がんは胆道がんのなかでは予後が良いと言われております。胆嚢がんでも早期がんの予後は極めて良好ですが、進行した段階では切除できても再発する例が多いのが実情で、進行胆嚢がんの治療成績は胆管がんとほぼ同様でした。抗がん剤などの有効な併用療法の開発が望まれます。
<胆道がん手術方法>
十二指腸に入る手前の胆管は膵臓の頭部に接しているため、中部から十二指腸寄りの胆管、乳頭部に発生したがんでは膵頭部がんに対すると同様に、膵頭十二指腸切除術が必要となります。(膵臓がんの項もご参照ください。)
胆嚢がんの場合、早期のものでは胆嚢を摘出するだけで十分根治的な場合もありますが、進行がんでは胆管に連続して広がることも多く、胆嚢が肝臓に接して存在することから、胆管・肝臓の切除をあわせて行う必要が生じます。肝臓の切除範囲は進行度により異なりますが、胆嚢が接している部分の肝臓は系統的に切除するように心掛けています。
胆管がんが肝臓に近い胆管に発生した場合、肝臓の中の胆管にも広がっていることが多く、多くの場合、広範囲の肝臓を切除しないと、完全な腫瘍の摘出ができないことが多くなります。
<胆道がん手術後の合併症>
胆道がんでは、胆汁の流れが塞がれて黄疸を呈する症例が多く、黄疸を取る処置を手術までに施行されていることがしばしばです。そのような症例では胆管内の胆汁に細菌が混入することが避けられず、膵頭十二指腸切除術では膵臓がんのところで記した合併症に加えて、術後の胆道感染が問題になります。
食道がん診療
<食道がん手術症例数>
2008年~2016年で39例の食道がんの切除を行いました。食道がんは早期に発見しても、既にリンパ節への転移をきたしていることも多く、また食道は胸部に位置することから、周囲の気管や大動脈といった重要臓器に直接浸潤をきたし、一期的な手術が困難な場合もあります。しかし、その場合でも放射線療法や化学療法を術前に行うことにより、手術が可能になることもあります。
さらに、食道がんは高齢者に多くみられ、すでに心臓や肺に疾患を持っている方も多く、そのような手術が困難な方でも、放射線化学療法のみで根治できる場合もあります。また、食道表面の浅いがんの場合は、内視鏡治療にて根治が可能です。
<食道がん手術の方法>
食道は口から食べた食物を胃へ運ぶための細長い臓器で、頚部から胸部背側を通り上腹部で胃につながります。食道は大きく頚部、胸部、腹部の3つに分けることができますが、食道がんはほとんどが胸部食道にできます。食道という臓器は元来リンパ管が豊富で、当然がんができた場合、これらリンパ管を介して比較的早い時期に転移をきたします。それも頚部、胸部、腹部と3つの領域にわたり、広範なリンパ節転移をきたしやすいのが特徴です。したがって、食道がんの手術は、転移したリンパ節を確実に切除するために、これら3領域の徹底したリンパ節郭清が必要になってきます。
さらに、食道の周囲には肺や心臓、大血管の他にも、発声や嚥下にかかわる反回神経などの重要な神経も存在するため、これらを損傷しないよう手術そのものにかなりの慎重さが要求されます。食道を切除した後は、胃を胸骨の裏を通る経路で持ち上げ、頚部にて吻合する再建法を行いますが、胃の手術後や胃の疾患にて胃を使えない場合には、大腸や小腸を用いることもあります。がんの進行度に応じて、術前や術後に放射線化学療法を追加する場合もあります。術後は、厳重な呼吸循環系の管理を要するため、数日間集中治療室に入室して頂きます。また、最近はより低侵襲な内視鏡下手術の導入を検討しています。
<食道がん手術後の合併症>
食道がん手術後の合併症は、他の消化器がんの手術と比較して手術侵襲が大きいため、やはり発症率が高いと言わざるを得ません。軽症のものも含め、約半数に術後何らかの合併症が認められました。最も多くみられた合併症は、縫合不全および吻合部狭窄、次いで肺炎などの肺合併症と不整脈です。縫合不全が発症した場合でもほとんどは経過観察と栄養管理の保存的加療のみで治癒します。術後の吻合部狭窄につきましては、全例内視鏡的拡張術にて軽快しております。不整脈につきましても、全身状態の改善に伴い軽快しております。また、食道がんの手術は非常に侵襲が大きく、手術死亡例も多く報告されています。今後は、術後管理や手術法の進歩とともに術後合併症も次第に減少するものと期待しております
膵臓がん診療
<膵臓がん手術症例数>
<膵臓がんとは>
膵臓は体の右側では十二指腸に繋がり、胃の背中側から左上腹部に及ぶ細長い臓器です。十二指腸に接する部分はやや大きく頭部と言っています。中央部で胃の背中側を横切る部分を体部、さらに左側を尾部と呼んでいます。膵臓の機能は、内分泌と外分泌に分けられます。内分泌はインスリンなどのホルモンを作る機能、外分泌は消化液である膵液を作る機能です。膵液は膵管と呼ばれる管によって、十二指腸まで運ばれますが、膵臓にできるがんの大半はこの膵管から発生する膵管がんです。
膵臓がんは早期発見が困難で、悪性度の高いものが多く、発見時にはすでに肝臓などへの転移や、周囲の主要血管などへの浸潤などの理由で、切除が勧められない状況となっている場合が少なくありません。切除しない場合でも、近年は化学療法が進歩しており、場合によっては放射線治療との併用も行って、以前よりは生活の質を確保しながら生存期間を延ばせるようになっています。それでも、治癒を目指すには手術で切除できる段階での発見が必須であることに変わりはありません。
治療法の選択に当たっては、消化器科、放射線科、外科がそれぞれの専門的見地から意見を出し合い、最適な治療法を選択するよう心掛けています。
近年、膵臓がん切除後の成績は改善しているとされておりますが、決して満足のいくものではありません。現在は、術後に補助化学療法(再発の予防を目的として化学療法)を行うことが一般的となっており、我々も術後の補助化学療法をお勧めしております。
膵臓がんは現時点では難治性のがんであり、切除を行ったとしても再発率の非常に高いがんです。今後の新たな治療法の開発が必要と考えられています。
<膵臓がん手術の方法>
長期生存が期待できる治療法は手術による切除です。頭部の膵臓がんの場合、十二指腸、胆管、胆嚢とともに膵頭部を切除する手術(膵頭十二指腸切除術)となります。体・尾部の腫瘍では膵頭部を残して左側の膵臓を切除する(膵体尾部切除術)ことが多くなります。膵体尾部切除術では切除を確実にするため、尾部に接する脾臓の切除も通常必要です。がんが全体に及ぶ場合、膵臓の全摘出(膵全摘)が必要となる場合もありますが、全摘出すると調節の困難な糖尿病となって、インスリンを注射しなければならず、生活の質が大きく損なわれる可能性がありますので、なるべく回避したいところです。
<膵臓がん手術後の合併症>
体尾部切除術では大きな合併症の頻度は多くありませんが、膵臓が作る膵液という消化液が膵臓を切ったところからお腹の中に漏れて、手術のときに入れた管がなかなか抜けなかったり、膿の溜まりが残って、排除する処置を要したりすることもあります。
膵頭十二指腸切除術では、膵臓、胆管、胃(ないしは十二指腸)の断端に、消化管を繋ぎ合わせる必要があります。それぞれの繋ぎ目がうまく繋がらず漏れてしまう場合があり(縫合不全といいます)、膵臓と腸管の繋ぎ目が漏れて膵液が漏れた場合は、様々な合併症が生じる場合もあります。
<その他の膵腫瘍への取り組み>
膵臓がん以外にも、膵臓には悪性から良性までいろいろな腫瘍が発生します。膵管内乳頭粘液性腫瘍や膵内分泌腫瘍、その他の嚢胞性腫瘍などにもそれぞれの症例に応じて十分な検討を行い、手術や経過観察などの方針を考えています。
乳がん診療
<乳がん手術症例数>
<乳がん手術の方法>
乳がんの手術は、二つのpartから成ります。
一つは乳房に対するもので、もう一つは腋窩(腋の下)に対するものです。
Ⅰ.乳房に対する手術
乳房温存率 | |||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
期間 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | (年) |
乳房温存率 | 44 | 48 | 47 | 58 | 40 | 41 | 44 | 44 | 32 | 29 | 44 | 27 | (%) |
表を横スクロールできます。
乳房に対する手術は、以前は胸筋温存乳房切除術が標準的でしたが、治療成績が変わらないということから、可能な方には希望によって乳房部分切除(乳房温存手術)を行っています。適応として、腫瘍径3cm以下の単発性腫瘍を基準としていますが、全体的なバランスなども考慮して決定します。大きい腫瘍に対しては、術前化学療法を行うことにより、温存手術をすることもあります。術後には、温存乳房内再発を予防する目的で放射線治療を約5週間かけて行います。
近年では、乳房切除後の乳房再建においてインプラントを含め色々な方法に対する保険適応も広がってきており、種々の条件を検討したうえで、乳房温存手術をするか乳房切除をするか選択することも可能です。
Ⅱ.腋窩に対する手術
腋窩に対する手術は、腋窩リンパ節転移の有無やその転移個数が重要な予後予測因子になるということで、レベル2までの腋窩郭清が標準的に行われていました。しかし、腋窩郭清に伴う上肢挙上障害や上肢浮腫などの合併症が生じる可能性があることや腋窩リンパ節郭清をしても生存率自体は向上しないことなどから、センチネルリンパ節生検が導入されています。
<センチネルリンパ節生検>
センチネルリンパ節はがんからのリンパ流を最初に受けるリンパ節と定義されます。そしてリンパ管に侵入したがん細胞が最初に転移を起こすリンパ節もセンチネルリンパ節であり、ここに転移がなければ腋窩郭清は省略できます。
センチネルリンパ節は転移が生じる可能性が高いということで、他のリンパ節と異なり細かい切片を作り詳細に検討しますので、微小な転移をも検出できるという利点もあります。腋窩郭清に伴い上肢浮腫などが生じるリスクがあるため、手術した側の上肢は一生点滴や血圧測定などを控える必要がありますが、センチネルリンパ節生検であれば、その制約がほとんど無いというメリットがあります。また入院期間の短縮や美容上の効果も得られます。
当院では術前超音波および胸部CTなどで明らかなリンパ節転移がないことを十分に確認し、色素法とRI法を併用してセンチネルリンパ節を同定しています。センチネルリンパ節の同定率はほぼ100%で、腋窩リンパ節再発を来した患者様はほとんどおられません。
Ⅲ.手術に伴う合併症
術後の出血や乳房切除の際の部分的な皮弁壊死などがまれにありますが、輸血を要したり重篤な後遺症を残すようなものはありませんでした。
Ⅳ.全身療法
乳がんは全身病であり、積極的な術後補助療法を行うことで予後が改善されることがわかっています。当院においても、再発を予防するために、種々の予後因子・予測因子を検討し再発リスクや乳がんのタイプに応じて化学療法(抗がん剤治療や分子標的治療)をお勧めしています。さらにホルモン感受性のある方には内分泌療法(5年~10年)を行います。
乳がんは10年間、さらにはそれ以上の期間経過を見ないと大丈夫といえないと言われています。再発してからの完治は難しいので、如何に再発しないようにすべきか患者様と一緒に考えて治療を行っています。また、乳がんの補助薬物の進歩はめざましく、up-dateな治療法を取り入れながら、治療にあたっています。
肝細胞がん診療
<肝細胞がん手術症例数>
肝細胞がんは多くの場合肝炎による肝障害を伴っており、また手術以外の治療法も有効であることから、手術は治療法の一つの選択でしかありません。最近では、肝臓移植が最も有効な場合もあると考えられるようになってきており、その適応も含めて、慎重に治療法を選択できるようにしています。比較的肝機能が良く、腫瘍の数が少ないが大きいものが切除の良い適応と思われます。消化器科、放射線科と密接に連携して治療方針を検討しています。
手術後の成績を左右するのは、がんの再発はもちろんですが、背景にある肝臓の機能の低下も挙げられます。また、切除したがんの再発と言うより、新たに肝細胞がんが発生することも稀でなく、手術後の定期的な検査で、肝機能を守りながら、再発や新病変の早期発見、早期治療を心掛けなくてはなりません。
<肝細胞がん手術の合併症>
手術の合併症としては、肝臓は血流の豊富な臓器であり、手術中の出血が考えられます。肝機能の良くない場合や、大きく肝臓を切除しなければならない場合は、術後肝機能が低下することが重大な事態に発展することも危惧されますが、手術前の肝機能評価を綿密に行うことで、その頻度は低くなっています。
その他、術後に胸水や腹水が増えたり、肝臓を切離したところから、肝臓が作る胆汁という消化液が滲み出て、それに対する処置が必要となることもあります。
大腸がん診療
<大腸がんの治療>
大腸がんの治療は日進月歩です。手術治療のみならず、必要な状況に応じて標準治療と最新治療の成績を十分に考慮し、手術と抗がん剤を用いた化学療法・放射線治療などの補助療法を効果的に組み合わせた集学的治療を念頭においた治療を提示しております。
早期がんの成績は良好で、再発の確率は極めて低いと言えます。病期が進むにつれて、再発の確率は高くなり、高度に進行した状態で発見された場合の治療成績は決して満足できるものではありません。ただし、大腸がんの場合は肺転移や肝転移などの遠隔転移を生じた場合でも積極的な切除を行うことにより長期予後が期待できるため当院では積極的な治療を行っております。
近年の抗がん化学療法の進歩も伴って根治手術不能な症例においてもより良い状態での治療継続が可能となってきました。
<大腸がん外科手術症例数>
大腸がんの治療の基本は病巣の根治切除です。当院での大腸がんの外科手術症例数は、2019年は113例でした。
<大腸がんの外科治療>
大腸は大きく結腸と直腸に分けることが出来ます。治癒切除を目標としたリンパ節郭清を伴った根治術を標準術式としております。
●結腸がん
当院では従来の開腹手術のほかに腹腔鏡による大腸癌手術を行っておりますが、これは縮小手術が目的ではなく、開腹と同等の郭清が行いうる症例においてより患者様の侵襲を軽減し、腹腔鏡特有の拡大視効果により出血量の少ない安全な手術を行うことを目的としています。
●直腸がん
直腸は周囲に膀胱や性機能を司る神経があり、また肛門括約筋という高度な機能を持った部分が近くにあることから、根治術を行うとともに機能温存にも留意する必要があります。これらのことを踏まえて当院では下記の術式を行っております。いずれの術式においても適応症例には腹腔鏡下手術を行っております。
- 肛門括約筋温存手術(直腸切除術)
当院では直腸全間膜切除(TME:Total mesorectal excision)を用いた直腸切除を導入しています。自動縫合器(医療用ホッチキス)を用いることにより、肛門に腫瘍が近く、以前なら永久人工肛門になった症例においても、がんが限局している場合は肛門が温存できる症例が増えました。さらに最近では、肛門のすぐ近くにできたがんであっても、比較的早い時期のものであれば、肛門括約筋(肛門を締める筋肉)を部分的に切除したうえで腸と肛門を縫合し、肛門から排便する機能を温存する内肛門括約筋切除(ISR: Intersphinctericresection)も発達してきました。 - 直腸切断術
腫瘍が肛門の極めて近くにあり、かつ肛門括約筋や骨盤内の他臓器に浸潤している場合、あるいは肛門そのものにがんが存在する場合は、それらを含めた直腸の切除を行う必要があります。この場合は腹部に人工肛門を造設する必要があります。当院ではこれらの高度進行下部直腸がんには術前放射線化学治療を併用して神経温存を行い、排尿機能を温存しつつ再発率の低下に努めています。 - ハルトマン手術
高度に進行していて根治術が困難な場合、腫瘍が既に穿孔(腸に穴があくこと)していて腹膜炎状態になっている場合、高度な腸閉塞状態で吻合(腸を繋ぐこと)が困難な場合などで腫瘍は切除しえても吻合が困難な場合は肛門を残して直腸を切除し人工肛門を造設する必要があります。症例においては一定期間の無再発の確認後に再度吻合をして自然な排便が可能となる場合もあります。
<腹腔鏡下大腸手術について>
当院では以前より腹腔鏡下手術を積極的に行っていましたが、大腸がんについては早期がんに限定しておりました。平成14年度の保険改正により腹腔鏡下手術が進行大腸がんにも保険適応されたことと十分な準備期間を得たことから平成14年7月から腹腔鏡下大腸癌手術を積極的に行いました。当院の方針として開腹と同等の郭清・術式を行いうることを腹腔鏡下手術の適応をする上で重要としております。
<大腸がんの抗がん剤治療について>
抗がん剤治療が行われる場面としては、大きく分けて
「切除した後に再発を減らす為に補助的に用いる場合」
「がんが手術で切除できないと考えられる場合」とがあります。
前者は手術後に抗がん剤による化学療法を行うことにより、再発をある程度抑制できることが知られています。これを「術後補助化学療法」と呼んでいます。ただし、術後補助化学療法を受けた場合でも残念ながら再発を来たすことがあります。
後者は手術で取りきることができないがんや再発したがん(切除不能な大腸がん)に対して、抗がん剤を使用する治療です。
1980年代までは大腸がんは薬が効かないがんだと考えられていましたが90年代後半にはイリノテカンやオキサリプラチンなどの新規抗がん剤、2000年代の後半になるとベバシズマブ、セツキシマブ、パニツブマブなどの分子標的薬が承認され、これらを組み合わせる治療により治療成績は飛躍的に改善しました。
しかしながら抗がん剤治療は、がんが進行するスピードを抑え延命することを目的として行われ、残念ながら完全に治すことは困難であります。そこで抗がん剤治療中は延命効果に加え、副作用や患者さんの生活の質を保ちながら、過ごしやすい時間をできるだけ長くとってあげられるようにすることも重要と考えます。患者様の病態を正確に把握してもっとも適切と思われる内容の化学療法を提供するようにしています。
●放射線治療
進行下部直腸がんに対しては、既に術前放射線治療が術後放射線治療より再発予防に有効であるとされています。当院では放射線科の協力のもと術前放射線化学療法を積極的に行っております。これにより根治性を損なうことなく肛門や膀胱機能温存手術の適応を広げることが可能となりました。また術後骨盤底部に転移・再発が生じた場合も放射線治療を行うこともあります。